世界的に電気自動車(BEV)の普及が踊り場を迎えていると言われている中、従来からのハイブリッド車(HEV)が注目を集めています。
最終的には化石燃料を使用せずに走行可能なBEVや燃料電池車(FCEV)の普及が進む可能性が考えられますが、過渡的には、経済的にもHEVはCO2削減の手段として一定の市場を占めることが予想されます。
そのような中、今回は、ホンダのe:HEVと日産のe-POWERの違いについて解説してみたいと思います。
※あくまでも公表されている情報を元に比較を行なっていますので、実態との相違がある可能性があることはご了承ください。
商品概要
ホンダは1999年に同社として初のHEVとなるインサイトを発売しました(ちなみに、トヨタ プリウスは1997年発売)。
それ以降、様々な方式のHEV(1モーターのIMA、i-DCD、2モーターのi-MMD、3モーターのSH-AWD)を発売してきましたが、2020年より2モーターハイブリッドシステムをe:HEVとしてシリーズ展開しています。
最新では、オデッセイ、フィット、ヴェゼル、ステップワゴン、シビック、ZR-V、アコードに採用されており、ホンダの主力システムとなっています。同システムは、アメリカをはじめ海外市場にも展開しています。
また、同社は、12月18日にe:HEVの特性を生かしながらドライバーとクルマの一体感を際立たせる「操る喜び」を追求した新機能「Honda S+ Shift」、電動AWDユニット、次世代中型プラットフォームを発表し、今後も適用範囲が広がっていくと考えられます。
日産は1997年にティーノハイブリッドを台数限定で発売し、米国向けにトヨタのTHSを採用したアルティマハイブリッドを2007年に発売、フーガやスカイライン向けのFRハイブリッドを2010年から発売してきました。
これらはいずれも現在まで継続的に供給されているモデルはありませんが、2016年、日本国内市場向けにシリーズHEVであるe-POWERを発売しました。
2020年に発売を開始した現行ノートからe-POWERは第二世代となり、モーター、インバーターが刷新され、ロードノイズの大きい時に積極的にエンジンを稼働させることで静粛性を高めるなどの改良が施されています。
最新では、エクストレイル、セレナ、キックス、ノートオーラ、ノートに搭載され、セレナ以外はe-POWER専用車となっています。また、2022年からは欧州でもキャシュカイとエクストレイルに採用されています。
機能・技術的特徴
e:HEVは、モーター走行とエンジン走行、両方の方式を持つハイブリッドシステムです。
モーターが得意とする低・中速ではモーターで走り、エンジンが得意とする高速クルージング時はタイヤに直結したエンジンで主に走行します。
従来のシリーズ・パラレルハイブリッドのように、モーター駆動とエンジン駆動を併用することはできませんが、バッテリー容量が足りないがモーター走行が有利な場合は、エンジンで発電した電気を直接モーターに供給することもできます。
システムを構成する主なコンポーネントは、走行用と発電用の2つのモーターとエンジン直結クラッチを内蔵した「2モーター内蔵電気式CVT」、「アトキンソンサイクルDOHCエンジン」、「パワーコントロールユニット」、「リチウムイオンバッテリーパック」です。
2モーター内蔵電気式CVTは、走行用モーターが電気エネルギーを駆動力に変換するだけではなく、減速時には回生を行います。
発電用モーターは、エンジンからのエネルギーを電気エネルギーに変換します。
従来はエンジン走行とモーター走行で使われるギアを共有していましたが、中型の車種に採用された平行軸配置2モーター内蔵電気式CVTでは、それぞれのギアを個別に設定することで駆動力と静粛性の向上を実現しています。
アトキンソンサイクルDOHCエンジンは車種によって、1.5LアトキンソンサイクルDOHC、2.0LアトキンソンサイクルDOHC、2.0L直噴アトキンソンサイクルDOHCの3種類があります。
燃焼効率と燃費性能向上のために、ホンダ独自のVTEC(可変バルブタイミングリフト機構)と電動VTC(連続可変バルブタイミングコントロール機構)を採用しています。
日産のe-POWERは、エンジンを発電専用とし、モーターのみで走行するシリーズハイブリッドシステムです。
従来のハイブリッドシステムとは異なり、エンジンは直接タイヤを駆動せず、常に発電に特化しているため、エンジンの効率を最大限に引き出すことができるのが特徴です。
システムを構成する主なコンポーネントは、「発電専用エンジン」、「ジェネレーター」、「インバーター」、「走行用モーター」、「コントロールユニット」、「リチウムイオンバッテリーパック」です。
使われるエンジンは主に3種類あります。
コンパクトカーには直列3気筒1.2L、ミニバンにはe-POWER専用となる直列3気筒1.4L直噴エンジン、SUVには直列3気筒1.5L可変圧縮比エンジン(VCターボエンジン)が採用されています。
e-POWERのエンジンは発電専用であるため、より熱効率の高い領域で運転することができることが特徴です。
インバーターは、直流電力を走行用モーターが利用できる交流電力に変換する役割を果たします。
走行用モーターは、発電専用エンジンからの電気エネルギーとバッテリーからの電気エネルギーを利用して駆動力を発生させます。
また、減速時には回生を行います。
第2世代e-POWERから、モーターとインバーターを一体化することでシステムのコンパクト化と高出力化を図っています。
e-POWERシステムは、高速道路や荒い路面を走行する時のような走行音が大きい時に積極的にエンジンを稼働することでエンジン音をより感じさせない制御や、ナビ情報に基づいて下り坂の前までにバッテリーを消費して下り坂における回収エネルギ量を最大化したり、目的地周辺でEV走行ができるような充電制御を行うなど、モーター走行の特徴を活かした制御を行っています。
特徴 | ホンダe:HEV | 日産e-POWER |
走行方式 | モーター走行とエンジン走行 | モーターのみで走行 |
主要コンポーネント | 走行用・発電用エンジン 2モーター(発電用・走行用)内蔵電気式CVT インバーター コントロールユニット リチウムイオンバッテリーパック | 発電専用エンジン ジェネレーター インバーター 走行用モーター コントロールユニット リチウムイオンバッテリーパック |
エンジン使用領域 | 高速走行時などのエンジン直結走行 発電によるバッテリー充電とモーターへの直接電力供給 | 発電によるバッテリー充電とモーターへの直接電力供給 |
まとめ
ホンダe:HEVと日産e-POWERは、それぞれ両社の主力の電動車技術ですが、e:HEVはエンジン走行とモーター走行ができる一方、e-POWERはモーター走行のみであるという大きな違いがあります。
高速走行時などはエンジン走行の方が効率的である場合が多いため、市場を含めたクルマとしての適用範囲が広くなる可能性が高い一方、モーター走行に専念した方がシステム的には簡素化できる可能性もあります。
いずれのシステムも、市場からは高く評価されているので、今後の更なる進化に注目していきたいと思います。
今後も電動車や電動化に関する解説記事を、できるだけ多くの人に分かりやすく、客観的な視点で掲載していきたいと思います。
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この記事を書いた人
矢島和男
ブルースカイテクノロジー(株) 代表取締役社長