2024年の米国自動車市場は、電動車(BEV、HEV)の堅調な成長が見られた一方で、ICEV(内燃機関車)が依然として市場の中心を占めました。
多様な消費者ニーズに応える戦略が、メーカーにとって重要になっています。
本記事では、最新データを基に2024年の動向を振り返り、2025年に予想される市場の変化について分析します。
2024年の米国自動車市場:電動車(BEV、HEV)の販売動向
2024年、BEV(バッテリー電気自動車)の月間販売台数は12月に13.0万台(全車両の8.5%)となるなど、前年より成長を見せました。
TeslaのBEV販売シェアは47.7%を占め、BEVの圧倒的リーダーとしての地位を維持。
一方、Ford、GM、韓国勢(現代、起亜)も競争を激化させ、インフラ整備や政府補助金が成長を後押ししました。
HEV(ハイブリッド車)は販売台数が12月に17.1万台(全車両の11.1%)となり、通年してBEVを上回る比率を記録しました。
この成長の背景には、燃料費削減効果や充電インフラ未整備地域での利便性が挙げられます。
特にトヨタがHEV市場を牽引し、全米シェアの約半分を占めています。
HEVは「電動車への移行に慎重な消費者にとっての現実的な選択肢」として支持を集めています。
ICEV(内燃機関車)の市場シェアは依然として圧倒的
電動車市場の成長が続く中でも、2024年も米国市場の約8割をICEVが占めています。
特にピックアップトラックや大型SUVなど、燃費よりも実用性を重視するセグメントでの需要が根強い状況です。
代表的なモデルとして、FordのFシリーズやGMのSilveradoが挙げられます。
これらにはBEV版も提供されていますが、販売の主力は依然としてICEV版が担っています。
この背景には、米国の広大な地理条件やライフスタイルに加え、一部地域での充電インフラ不足が影響しています。
日産の米国市場における苦戦:HEVラインナップの欠如だけでは語れない
最近よく話題に上がる日産ですが、多くの方もご存知のようにこの米国市場で苦戦を続けています。
よく指摘される「HEVラインナップの欠如」は一因ですが、それだけが問題ではありません。
確かに、トヨタやホンダがHEV市場で強みを発揮する中、日産はリーフやアリアなどのBEVに注力する戦略が裏目に出ている面はあるでしょう
HEVがラインナップにあれば、販売台数の上積みは期待されたかもしれません。
ですが、日産の課題は以下の通り多岐にわたります:
- ディーラーネットワークの課題
- 価格競争力の低下
- ブランドイメージの弱体化
ICEV(アルティマやローグなど)の販売も競合と比較して振るわない状況が続いています。
HEVを導入してもこれらの構造的課題を解決しなければ、米国市場での巻き返しは難しいのではないでしょうか。
2025年の市場予測:トランプ政権とイーロン・マスクの影響
2025年はトランプ政権の誕生により、BEV市場を取り巻く環境に変化が予測されます。
具体的には、以下の点が注目されます:
- トランプ政権の影響
BEVへの補助金撤廃や規制緩和により石油産業が支援され、ガソリン価格が低下する見込みです。
この動きはICEV需要を再び押し上げる可能性があります。そして、HEV需要も引き続き堅調に推移すると見られます。
- イーロン・マスク氏の影響
前述のBEV補助金撤廃が実施されるもののテスラは既に強い価格競争力を保持しており、補助金撤廃の影響を受けにくいと見られます。
一方で「政府効率化省」への参加を通じて、BEV市場をある程度保護する施策を打ち出す可能性も考えられます。
基本的にトランプ氏は、「アメリカ第一主義」を強く印象付ける施策を推進しています。
過去の政権下でも、燃料基準の緩和や石油産業の支援を行った実績があり、これに基づき国内産業を保護しつつ雇用を創出することを重視する可能性があります。
また、アメリカ国内に大きな雇用を創出できるのであれば、(もちろん経済安全保障など様々なリスクの払拭が前提になりますが)例えばBYDの工場をアメリカに招致する、といった可能性だってあるかもしれません。
現時点では、中国との経済競争を強調するトランプ政権の方針を考慮すると積極的に進められることはないとは見られますが、完全に否定される話ではないと思います。
既成概念に囚われず、「アメリカ第一主義」を軸として、これまで述べてきたような政策が今後も次々と打ち出されると考えられます。
国内外の自動車メーカーや投資家が(もちろん私たちも)市場動向に注目しています。
(1月30日追記)
この記事を発行した後、米運輸省から以下覚書発行の発表がありました。
ポイントは以下です。
1.「自動車へのアクセスに関する規制障壁を取り除く」
2.「車両選択における消費者のために、公平な規制環境を確保する」
3.「必要に応じて、ガソリン車の販売を制限する機能を持つ州の排出規制免除を終了する」
4.「他の技術より電気自動車(EV)を優遇し、個人、民間企業、政府機関にEVの購入を事実上義務付けるような不公正な補助金や市場のゆがみを引き起こす政策を排除することを検討する」(大統領令14154「Unleashing American Energy(アメリカのエネルギー解放)」第2項より)
(覚書の一部を引用して日本語訳)
つまり、米国は決してBEVを排除するつもりなどなく、”BEVとICEVをあくまでも同じ土俵で戦わせる”、ということを言っているわけです。
イーロン・マスク氏とすればテスラは既に十分な競争力を持っており、同じ土俵でも十分に戦えるという判断もあるでしょう。
(そもそもマスク氏は既に自動車に力は入れていなく、xAIに力を入れているという話もありますが)
結論:電動化進展と多様な需要への対応
2024年の米国市場は、BEVとHEVが引き続き成長する一方で、ICEVが依然として市場の主力であり続ける現実を示しました。
2025年には、政策転換や競争環境の変化を背景に、各メーカーが多様な戦略を模索する必要に迫られるでしょう。
特にBEVの成長を見据えた長期的な投資と、短期的に需要が高いHEVやICEVに対応する柔軟なアプローチが、競争優位性を確保する鍵となるはずです。
消費者の多様なニーズを的確に見極めながら、バランスの取れた製品やサービスを展開することが求められます。
これは容易な課題ではありませんが、市場やデータとの継続的な対話を通じて適切な判断を下すことが、成功への不可欠な要素となるでしょう。
ブルースカイテクノロジーでは自動車に関する様々な市場調査を行っております。
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この記事を書いた人
佐々木裕介
ブルースカイテクノロジー(株) マネージャー